2026 準グランプリ|株式会社小堀哲夫建築設計事務所 代表・建築家 小堀哲夫/光風湯圃べにや 代表/奥村隆司 女将 奥村智代

賞 準グランプリ/Semi-grand prix
受賞者 株式会社小堀哲夫建築設計事務所 代表・建築家 小堀哲夫(こぼり てつお)/光風湯圃べにや 代表/奥村隆司(おくむら たかし) 女将 奥村智代(おくむら ともよ)
空間部門/建築 光・風・大地 に寄り添い人に想いを馳せる旅館建築 – 営みが旅館文化を紡ぎ、地域の未来を育てる –

作品情報

光・風・大地 に寄り添い人に想いを馳せる旅館建築 – 営みが旅館文化を紡ぎ、地域の未来を育てる –

サイズ… 面積:1,910 ㎡
素材… 構造:鉄骨造・RC 造・木造

自然と呼応し、地域の文化を未来へつなぐ旅館
光風湯圃べにやは、135年にわたりあわらの地で人々を迎えてきた旅館の記憶を継承し、火災からの再建を機に未来へ向けて更新した。残された庭との関係を大切にし、あわらの光、風、水、温泉熱といった穏やかな自然の力を丁寧に建築へ取り込んでいる。中庭とトップライト、三面採光によって、すべての客室に一日の光の移ろいが届く。庭に沿って雁行する建物は、かつての「くの字」に曲がる廊下や、連続する軒の記憶を現代に引き継ぐものである。
「つかず、はなれず、はなれず」というおもてなしの思想のもと、17室すべてに異なる間取りと設えを与えた。眺めのよい場所に設けた「部屋ダイニング」では、家族や仲間が気兼ねなく食卓を囲む、日本の旅館に受け継がれてきた部屋食の文化を体験できる。旅館は単なる宿泊施設ではない。季節の設え、料理、温泉、建築、接客、職人の手仕事が一体となる、和文化の総体である。
中央の廊下棟をRC壁式構造、両側を木造客室とする構成は、耐震性と庭へ開かれた客室の伸びやかさを両立し、将来の増改築にも応答する。障子、簀戸、畳、床の間、雪吊りなど、季節とともに姿を変える空間は、福井の職人たちの確かな技術に支えられている。小堀哲夫建築設計事務所は、この建築を単体の作品としてではなく、地域の関係性を丁寧に編み直し、福井と日本の旅館文化を次代へつなぐ場として構想した。
さらにべにやは、地域の核であり、食、生産者、手仕事、文化、人の記憶を結ぶネットワークの核でもある。「あわらテリトーリオ」の考え方のもと、地域の食材を料理へ、日々の営みを縁側の風景へとつなぎ、旅館を通して土地の魅力を来訪者へ手渡していく。
GP6準グランプリ

  • GP6準グランプリ
  • GP6準グランプリ
  • GP6準グランプリ
  • GP6準グランプリ

審査委員の講評

堀越英嗣(芝浦工業大学名誉教授 東京藝術大学客員教授 建築家・堀越英嗣ARCHITECT 5 代表)

この作品は歴史ある温泉地で135年の歴史を持ち、国登録有形文化財に指定された由緒ある老舗旅館の火災による消失からの再建の仕事である。残った庭園を中心とした再構築により、長く親しまれてきた歴史の継承が実現されていることは、平安時代以降の住まいの空間環境が持つ、庭園と建築が一体化した美しい日本の風景を継承し、再現していることは貴重である。訪れる人々は変わらない庭園に安心しつつ、新しい建築との新鮮な調和に心が躍る体験が意図されている。
設計者は、そのような人と光、風、緑や土という自然との心地よい出会いの体験を生み出してきた、焼失前の建築の特徴でもあった、くの字に曲がった薄暗い廊下、軒のつながりを新しい意匠で継承している。そのことで、長年の客や地域の人々、旅館のスタッフが持ち続けてきた思いや営みも共に文化として継承されているのである。
特筆すべきはそのような歴史を継承する「場」を生み出すために庭と隣り合う部屋との関係を雁行配置で馴染ませ、それぞれの場所ならではの光、風、景色を生み出すために、17室の部屋ごとに全て異なった間取りや設えの設計になっていることである。
しかし、それらが単に「新しさ」「現代的な日本」という外国向けの「日本風」という表面的な安易なデザインではなく、人がそこにいる心地よさを中心に据えた、このままずっと居たくなるような気持ち良い自然と人の関係を作ってきた「和文化」と言えるような居心地の歴史を継承しているのである。
日本建築の素晴らしさの一つに、さりげなく工藝的なきめ細かな職人技「クラフトマンシップ」が部分に潜んでいることがあるが、この建築は全体の配置から、各部屋の床、壁、天井、建具、家具に至るまで、分かりやすいが余分な装飾や饒舌で押し付けがましい表現は微塵もなく、寡黙な工藝的気持ちよさが徹底している。ここを訪ねる人は、はっきりとした理由がわからないかもしれないが、気持ちよく過ごし、また来たくなるような気持ちになるだろう。そしてなによりも旅館のオーナーからスタッフ全員がこの建築空間とハーモナイズしている心のこもった歴史と伝統のおもてなしの場を継承し続けていることこそ本当の和文化と言えるだろう。
以上のことから、この作品は自然と共にある旅館建築の気持ち良い体験が日本文化を未来に継承する「和文化的魅力」を実現した優れた建築・庭園を持つ旅館であり、準グランプリに相応しい大変すぐれた作品である。

プロフィール

株式会社小堀哲夫建築設計事務所 代表・建築家 小堀哲夫/(こぼり てつお)光風湯圃べにや 代表/奥村隆司(おくむら たかし)女将 奥村智代(おくむら ともよ)

  • GP6準グランプリ
  • GP6準グランプリ

(小堀哲夫建築設計事務所)
1971年、岐阜県生まれ。2008年、株式会社小堀哲夫建築設計事務所設立。
日本建築学会賞、JIA日本建築大賞、Dedalo Minosse国際建築賞特別賞、IDA賞、AMP賞など国内外において受賞多数。
代表作品に「ROKI Global Innovation Center –ROGIC–」「NICCA INNOVATION CENTER」「梅光学院大学 The Learning Station CROSSLIGHT」「光風湯圃べにや」「東海国立大学機構Common Nexus」。
進行中のプロジェクトに「新・帝国劇場」「三愛ドリームセンター建て替え計画」など。
その場所の歴史や自然環境と人間のつながりを生む、新しい建築や場の創出に取り組む。
(光風湯圃 べにや)明治17年(1884年)、あわら温泉の開湯翌年に創業した光風湯圃べにや。
以来140余年、皇族をはじめ、文人・歌人など多くの著名な方々を迎え、あわらの歴史とともに歩んできました。
2018年、火災により建物を失いましたが、多くの方々の支えを受け、2021年に新たな「べにや」として再建。
受け継いできた「人に寄り添い、人に想いを馳せる」心を大切に、歴史と新しい感性を重ねながら、お客様一人ひとりに心地よい時間をお届けしています。

◆受賞コメント
この度は準グランプリという栄誉ある賞を賜り、誠にありがとうございます。
再建にあたり私たちが目指したのは建築を単体の器として完結させず、地域の食や手仕事、人々の営み、土地の記憶と結び直し、新たな関係が生まれる場として育てていくことでした。
旅館は訪れる人を迎える建築であると同時に、地域の文化や時間を受け止め、次世代へ手渡す拠点でもあります。
地域との協働で形づくられたこの場を評価いただき大変嬉しく思います。
これからも建築と地域が共に時間を重ね、和文化の新たな魅力を発信する場を丁寧に育んでまいります。
人間ってすばらしい。
そしてこの活動をどこかで見てくださって顕彰してくださる方々もおられる。
さらなる勇気をいただくとともに心底ありがたい思う。

◆受賞者ホームページ・SNS
HP:https://tk-a.jp
HP:https://awara.co.jp/

Instagram: https://www.instagram.com/tetsuokobori/
      https://www.instagram.com/beniya_awara/
Facebook: https://www.facebook.com/TKArchitects/