奨励賞|知麻

優秀賞/Incentive Award  
受賞者 知麻
受賞作品 いろはにほへと

作品情報

いろはにほへと

墨象作品
【サイズ】縦35㎝ 横30㎝ 幅3.2㎝
【素材】画仙紙 墨 パネル仕立

絵緯博多 八寸 名古屋帯
【サイズ】幅:約31cm 長さ:約387cm
【素材】絹100%

草履
【サイズ】L寸 全長つま先~かかと/24.5㎝ 横幅最大部分/8.5㎝ 高さ(つま先)/5㎝ 高さ(かかと)/8㎝
【素材】台・天: PVC(合成皮革)・シルク、底:合成ゴム、鼻緒 表 : PVC(合成皮革) 裏 :ナイロン・レーヨン

墨象とは、第二次世界大戦後に前衛書道から発展した、書道の概念・領域を超えた芸術分野で、墨の造形美を追究する芸術です。

書道は文字の造形表現であり、対して墨象は文字という制限の解放と言われています。

本来、文字から離れる墨象ですが、私はあえて文字をモチーフに書いています。

それは読む為ではなく、抽象表現の手法として文字をカタチとして捉え、その文字の流れと呼吸を線として表現することで迷いのない線を引くことができるからです。

その線に込められた強さ、抑揚、滲み、掠れ、余白…墨という無限に広がる様々な黒。

「難しい」「古くさい」書道ではなく、カッコイイ墨の世界に興味を持っていただきたいと思っています。

その墨の線を約778年続く日本三大織物の一つである博多織の帯にしました。

墨象を図案としながら、意匠を担当する職人さんが配色を考え織物データ(組織)にします。墨の線を点に変換し、糸を細密に配置することで、難しいと思っていた墨と筆で描かれた繊細な線・滲み・掠れを見事に再現することができました。

さらに、その博多織の生地を大阪の職人さんの手で、糸と針を使わない「貼り合わせ」の技法によって草履とバッグに。

左右どちらでも履けるという草履の特性を活かし、履き替えた時に表情が変わってみえるよう、博多織の生地とメタリック生地を切り替えて回し込むようにデザインしました。

シンプルな中にもトキメキがあるカッコ良さを目指しています。

東京の墨象家の作品が九州の博多織の帯になり、大阪の職人さんの手によって草履とバッグになる。それぞれの手から手へ、そして地域を繋ぎ、カタチになる。伝統のリレーによって、未来に技術と想いを繋いでいきます。

携わってくださった企業は、どこも創業から100年近く、またはそれ以上続いている企業ばかりです。

私には書くことしかできませんが、職人さんの手から生まれた筆・墨・和紙があってはじめて書くことができます。

さらに表装職人さんの手仕事によって仕立てられ、作品というカタチになります。

日本には、繊細な美意識と技術をもとにした「世界に誇るべきクラフトカルチャー」が数多く存在し、歴史と伝統を守りながらも、時代のニーズを確実に捉えて、今なお進化し続けています。

 

審査委員の講評

襟川 文恵 (公益財団法人横浜市芸術文化振興財団 横浜美術館渉外担当リーダー)

「墨象」作品をモチーフに博多帯を仕立て、それを素材としたバッグ・草履の制作へ展開。ひとつの創作を起点に、様々な職人・企業へ仕事を繋いでいくことで、「和装」をとりまく人々を群像として成長させようとする意欲・アイデアを評価した。 日本の伝統文化は職人の仕事に支えられているところが大きいが、近年では仕事量の減少や後継者不足などにより、職人が良い仕事をするための環境が整わないことが大きな課題となっている。この課題の改善に向けて、作り手の立場から積極的にアプローチしている点が素晴らしい。それは単に、意志さえあれば出来ることではなく、作家の人柄や作品が「巻き込む力」を湛えているからこそ実現したのだろう。 「墨象」は、字形にとらわれず、線や空間の造形美として表現する創作手法であるため、作品タイトルを見ない限り、一般の人が「いろはにほへと」という文字を読み取るのは容易ではないと思われる。しかし、須らく言葉は「言霊」を纏う。10世紀末頃には成立していたと言われている「いろは歌」は、長きにわたって仮名文字の初歩的な学習や、番号の代わりとして用いられ、それは現代もなお続いている。「日本の文化を伝承する」という大きな目標の達成に向けて、「いろはにほへと」という言葉が選ばれたことには大きな意味がある。「いろはにほへと」の言霊が、作家の創作と職人の仕事によって魅力的なプロダクトとなり、使う人へと伝わり、更に世界中でそれを目にする人々へと広がっていくことを期待せずにはいられない。

墨象家プロフィール

知 麻

東京都出身。5歳より筆を持ち、書家・眞田朱燕に師事。書に限らず絵画や演劇などの芸術活動を行い、 2012年、自らの表現を求め「墨象家(ぼくしょうか)」として独立。2014年「墨象家」として初個展。 作品発表だけでなく、アーティストやミュージシャンとのコラボレーションなど、古典的な書道の概念にとらわれない表現活動を行っている。また、大阪で90年以上続く草履の老舗「岩佐」や、波佐見焼の窯元、博多織の織元とも制作を行うなど、墨と書だけでなく、日本の伝統文化の魅力を伝えることにも積極的に取り組んでいる。

受賞者ホームページ
Instagram
https://www.instagram.cchima.bokushou/

受賞コメント

この度は奨励賞を頂き、大変光栄に思います。
時代は変化し続けています。
コロナで日常が奪われ、常識が変わり、否が応でも変化を求められることも増えました。
失われゆく伝統的な文化や技術も、まさにそうかもしれません。
その上で、表現者の私にだからこそできることを信じながら、それらに携わる人たちの、目に見えない想いや技術を伝え遺していきたいと考え応募をしました。
今回の受賞が少しでも、誰かの心に響くことがあったのであればうれしく思います。
微力ながら、これからも想いをカタチに、繋いでいく活動を続けていきたいと思います。