奨励賞|荻原水那

奨励賞/Incentive Award  
受賞者 荻原 水那
受賞作品 てのひらの四季

作品情報

てのひらの四季

制作年:2023
サイズ : 各 50mm× 50mm× 20mm (4 個1組)

素材 : 朴、漆、顔料、銀

マスクをするとわかっていても、私は毎⽇⼝紅をつける。コロナが蔓延する社会になってか ら⼝紅をつけなかったり、マスクに付きづらいという機能性だけで選ぶことが多くなった ように思う。そんなことを気にせずに好きな⾊、好きなテクスチャーの⼝紅がつけられる社 会になってほしいという願いが制作のきっかけとなった。社会の状況に捕われることなく、 ⼝紅⼊れの⾒た⽬でその⽇の唇の⾊を決めることがあってもいいかもしれない。そこで、漆 の技法である“変わり塗り”を⽤いて四季を感じられるデザインを施し、⼝紅を使うときにそ の季節を思い出せるような紅⼊れを制作した。また、この作品は、繰り返し紅⼊れとして使 え破損しても直すことができ、天然の素材でできている。サステナブルを意識すること多く なった近年、未来の化粧道具として提案したい。

 

審査委員の講評

秋元 雄史 (東京藝術大学名誉教授 美術評論家)

新型コロナウィルスが蔓延し、マスク姿で外出することが普通になっていた時期に、毎日口紅をつけることが習慣になっていた作者の思いから、やむにやまれずに生まれた作品とも言っていいものだろう。実施にコロナ期間中でも毎日紅をさしていたという作者ならでの作品だ。 作品は、その日の気分で自由に選ぶことができる「てのひらの四季」と題された紅入れである。ちょうど手のひらに乗るサイズで、四季を表すように四種類ある。暖色系と寒色系が二つづつで、春夏秋冬に分かれている。それぞれ異なった色彩で表現されている。 技法は、漆の変わり塗りで、何層にも塗り重ねられた色漆を磨いていき、マーブル状に、あるいは不定形に紋様を浮かび上がらせてデザインされている。色彩感覚は、明るく、健康的である。まるでコロナを吹き飛ばすような元気さがある。 大きさも先ほども述べたが、ちょうど手のひらに乗るサイズであり、形状も持ちやすい円形で、全体に丸みを持たせている。唇に紅を刺すというのは至って触覚的な世界だろうから、物に触れる感覚というのが大事になるだろう。紅差しを持った時の感じや漆の表面に触れた時の質感など、木工や漆を使用した工芸品だから生まれる独特の質感がある。それをうまく活かしたさりげない日常感がある作品である。みずみずしく、健康的で、現代的なところがいい。

作家プロフィール

荻原 水那

2000年東京都⽣まれ
東京藝術⼤学美術学部⼯芸科漆芸専攻修⼠課程 在学

受賞者ホームページ
Instagram
https://www.instagram.com/suina_o/

受賞コメント
この度は奨励賞をいただき、誠に光栄に思います。現代における漆という素材が私たちのよ うな若い世代の暮らしの中にもさりげない光を放つような存在場所を作れたら、という思 いで制作しました。賞をいただいたことを励みにこれからも精進していきたいと思います。