賞 | グランプリ/Grand Prix |
受賞者 | 平井健太 |
受賞作品 | muji 1seater chair |
作品情報
muji 1seater chair
サイズ…W1000 D700 H720(mm)
素材…吉野杉 スチール
奈良県の銘木「吉野杉」と特殊な曲木技法「free form lamination」を組み合わせて制作したラウンジチェアです。座面からそのまま背板へとつながる緩やかなカーブは、ひじ掛けや、体をゆったりと支える背につながります。材料となる吉野杉を育む吉野林業は、日本人工三大美林を評する程美しく歴史ある林業です。
その中でも私が普段使用している材料は、突板と呼ばれる薄くスライスされた単板です。
突板に加工できる材料は、優良材とされる吉野材の中でも特に優れた一級品の材料です。吉野杉は本来建築用材なので、材料市場では4m程度の長さで取引されています。4m間一つも節等の欠点がない木材、それが吉野材の凄いところです。(節は枝の痕なので、節が無い=枝を生やさせない育て方をされている)
しかし、一般的な椅子やテーブルですと、一番長い部材であってもせいぜい2m程度の長さしか使用しません。家具用材としては正直オーバースペックでしたが、折角4m無節の材料があるので、それをそのまま活かせるデザインを考えました。名前のmujiとは、「無地」であり、業界用語で「無節」を意味します。
審査委員の講評
ロバート キャンベル(日本文学研究者/早稲田大学特命教授/早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)顧問/東京大学名誉教授)
出品者によると、グランプリに選ばれたmuji 1seater chairの「muj」とは「無地」、つまり「無節」のことを言う。椅子一脚を形づくるのに節ひとつない吉野杉を用いたということだが、タイトルに明らかなように、作品はまず素材の上でイノベーションを結集させようと構想されたものである。
軽く柔らかな杉材は建築に適しているが、家具用材には不向きとされている。市場で取り引きされる吉野杉は、長さ四メートルもあり、節として痕跡を残す枝が一本も生えないよう丁寧に育てられている。年輪の稠密な素材を薄くスライスし何枚も重ね、滑らかな突板に仕上げていった。そのように積層した単板の強度に加え、圧着に使う接着剤自体も強さを高め、美しくはあるが従来日々の使用に耐えないという吉野杉の魅力を最大限に引き出した発想と実践を、審査委員は高く評価したのである。
メビウスの輪のように美しく流れる艶やかな表面にも技術上の工夫が込められている。通常の積層合板では雌雄の型をセットに使い、それに添って成形するわけだが、型を使わない本作品ではその制限を超えた切れ目のない自由な「流れ」を可能たらしめている。我々が横へと広がる座面にそっと腰を掛けると、体型がどうかを問わず、背を預け肘を掛ける「ちょうど良い」場所がストレスなく見つかるのである。白木自体が希求するかに見える軽やかでやさしい形と新技術の結実で、未来につながる和文化の可能性を実感した。
プロフィール
平井健太
1984年静岡県生まれ。
2010年飛騨高山で木工技術を習得し、 アイルランドの家具工房「Joseph Walsh studio」に3年間勤務。 帰国後、奈良県川上村に移住し、2017年「studio Jig」を開業。 身に付けた特殊な技術により針葉樹の可能性を日々探っている。
◆受賞者ホームページ
https://www.instagram.com/studiojig
◆受賞コメント
この度、コンテストでグランプリを受賞できたこと、大変光栄に存じます。
出品したラウンジチェアには、古来より日本の暮らしに根付く杉の木を使用しています。
杉は日本人の持つ、自然と共に生きる文化を象徴する素材であり、その木目や香りは私たちに和の心を自然と呼び覚ましてくれます。この伝統的な素材を活かしながら、現代のライフスタイルに調和するデザインを追求しました。今後も日本の素材と文化を大切に、さらなる作品づくりに励んでまいります。この度は誠にありがとうございました。