賞 | 学生賞/Excellent Student Award |
受賞者 | 林 美来 |
受賞作品 | childhood |
作品情報
childhood
サイズ…W1300 H1600(mm)
素材…絹 顔料 金属糸
テーマは子供時代です。
卒業や就職、引越し、一人暮らしなど、皆いつかは子供時代を終えて巣立っていく。けれども子供時代の経験や思い出はいつまでも自分の根底に残っている。幼少期を海底の岩や貝に付着して過ごし、やがて海に巣立っていく生物をモチーフに描いた。
小さい頃好きだったこと、純粋に感動した気持ちを忘れずにいたいという想いで制作した。
デザイン、友禅、糸染め、手刺繍を自ら行った。伝統的な日本刺繍の技法を使いながらも、親しみやすく明るい柔らかな色や、ポップで不思議な形で表現している。日本刺繡は絹糸を撚ることから創作を行うので、糸の色、太さ、撚りの強さ、撚り方向、針足の長さに気を配りながら刺繍をした。
絹糸は繊維の形がゆがんでいるので、光の反射により視る角度によって、色が変わる。照明や鑑賞者が見る方向によっても、見える色が変化する所が魅力である。
絹独特の光沢の美しさを感じてほしい。
自分の手でものを創る中で見られる光景はとても美しく魅力的である。近年、スマホの画面上でできることが増えたことで、水と染料で色を重ね、ひと針ずつ刺繍をする地道な手仕事の楽しさを改めて感じるようになった。これからも自分の感性を大切にして丁寧に制作していきたいと思っている。
審査委員の講評
富川匡子(株式会社emu(エミュ) 代表取締役社長)
“レインボー”と称するのがふさわしい染め分け地に、手描き友禅と多種多様な刺繍技法で、夢のような世界を描き出した訪問着。
綸子の地紋が、水の煌めきにも、海中から仰ぎ見る光のようにも見え、着物全体に効果を与えている。感嘆したのは、刺繍技法のバラエティーだ。金駒繍(きんこまぬい)、市松繍、三角ばてん繍、螺鈿繍(らでんぬい)……。糸の撚り方にも緩急をつけ、ときには金属糸を撚り入れるなど様々な工夫が見て取れる。自ら糸染めしただけあって、ポップでカラフルな友禅の色調と溶け合い、色鮮やかな世界が展開されている。
一方で糊糸目にも注目したい。とくに後身頃を横切る雲のような線は、細くきっちりと描かれており、丁寧な仕事ぶりがうかがえる。
描かれたモチーフは「幼少期を海底の岩や貝とともに過ごし、やがて海に育っていく生物」だと作者はいう。バーバパパのような変幻自在な生物が動き回る場所には花火があがり、都会のビルのような建物も表されている。自由に描かれた絵画のような模様表現に、作者が心から楽しんで制作している姿が透けて見えるようだ。
作者にはぜひこの一枚をお召しいただき、着物文化の自由さ、多様性を多くの人に伝えてほしい。
プロフィール
林 美来
2019年 東京都立総合芸術高等学校 卒業
2023年 女子美術大学 デザイン・工芸学科卒業
2023年 女子美術大学大学院美術研究科美術専攻博士前期課程工芸(刺繍)入学
受賞 2023年 第58回神奈川県美術展 工芸部門 特選
展示
2020年 ゆきむすめ展 横浜
2023年 女子美術大学工芸専攻卒業制作展 青山spiral
JOSHIBISION 上野 東京都美術館
学生アートフェスティバル 銀座 鈴画廊
神奈川県美術展 神奈川県民ホール
神奈川県美術展 巡回展 鎌倉芸術館
2024年 女子美術大学大学院 染め・刺繍3人展
日本文藝 The Square vol.2スクエア展
◆受賞者ホームページ
https://miraikurage.com/
instagram
https://www.instagram.com/miimicroorganism/
◆受賞コメント
この度は、学生賞を頂戴し誠に光栄に思います。
私は、近未来的なモチーフを使いながら、先祖からの連なりを感じる作品を制作しています。高校で日本画、大学で日本刺繍を学び、大学院では友禅染めを組み合わせ、伝統的な技法を用いて幻想的な世界観を表現しています。
大切にしたい想いを人生の節目に着用する着物に表現することで、美しく幸福なことの象徴として、未来に継承していきたいと思っています。