2025優秀賞|ガラス作家 晶阿弥博子

優秀賞/Excellent Award
受賞者 ガラス作家 晶阿弥博子
工芸・美術部門/硝子 時の帳(とばり)

作品情報

時の帳(とばり)

サイズ…W900~1800 D30 H600 (mm)
素材…ガラス 漆 金箔 銀粉 薄貝

《時の帳(とばり)Veil of Time》は、茶の湯の場を静かに包み、時を隔てる“帳(とばり)”のような存在を思い描いて制作した風炉先屏風です。
京紫の漆に伝統文様を施し、そこに光を透かすガラスを嵌め込むことで、過去と未来、静と動が溶け合う「時の層」を表現しました。
漆の深みに宿る温もりと、ガラスの透明感がもたらす清冽な光。
その対話の中に、移ろう時を見つめる人の祈りと記憶が重なります。
「彩漆玻璃(さいしつはり)」と名付けたこの技法は、漆とガラスという異素材の融合を通して、伝統の美意識に新たな息吹をもたらす試みでもあります。
見る人それぞれの“時の記憶”にそっと寄り添うような、静謐な空間の創出を目指しました。
GP5優秀賞

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審査委員の講評

須田賢司(重要無形文化財「木工芸」保持者 (公社)日本工芸会理事、参与、木竹工部会長 木工藝学林清雅舎主宰)

ダイヤモンドポイント彫りは、先端にダイヤモンドを付けた専用ペンでガラス器体表面に点や細い線を彫りこむ技法。16世紀初めに、レース編みが盛んだったヴェネチアで、ガラスにそのレース模様を写しとるために始まったと言われている。透明ガラスに彫り込むとその部分が白く見え、まさにレース編みを表すにふさわしい技法である。しかし効果に対し手間がかかり現代では趣味の域を出られずにいる。
作者はいわば表現の世界では忘れられたこの技法に着目し、漆芸と組み合わせ新たな表現領域を切り開いた。
ガラスにはない漆独特の色あいの京紫色と、漆黒という言葉が相応しい黒、そこにこの技法の出自を想起させるレース模様と光の波動を思わせる波文を彫りだした。彫刻面に金を入れ漆で固定する沈金や、夜光貝などを貼りこむ螺鈿など日本伝統の技法、色使いとヨーロッパの技法の出会いとその調和が見事である。
また柔らかな曲線的文様とは対照的に表面はガラス特有の平滑面であり硬質な反射光を放つ。その対比が心地いい。
表現に用いたアイテムとしての「風炉先屏風」は制約の多い茶道具の中では比較的自由度が高いと言ってもガラスの茶道具は未だ少数派である。そこに果敢に挑戦した作者には敬意を表したい。保守的な茶道の世界である。しかし他の茶道具との取り合わせは難しくも楽しい悩みとなりそうだ。陰影礼賛ではないが本来明るくはない茶室に置かれた時、この光沢と反射はどんな表情を見せるのだろうか。
今後、ダイヤモンドポイントという日本ではまだあまりなじみのない技法の作者自身の深化、また一般への普及にも期待したい。さらに茶道具という世界にも大いに切り込み、同時代の茶人との競演が深まればそれも楽しみである。
 

プロフィール

ガラス作家 晶阿弥博子

GP5優秀賞
<受賞歴>
2009年 「第4回KOGANEZAKI器のかたち現代ガラス展」入選(以降毎回)
       「Guild Exhibition 21st Century Engraved Glass」(英国)新人賞
2012年 「第12回日本のガラス展」東京および国内巡回(以降毎回)
2014年 「晶阿弥博子のガラスの世界展」三越新潟店・京王新宿店
2016年 「第71回新匠工芸会展」努力賞、「第72回新匠工芸会展」佳作賞
2018年 「晶阿弥博子のガラス茶道具展」清昌堂やました(東京・京都)
    「ガラスのかたち/日本ガラス工芸協会選抜展」日本橋三越本店
2019年 「第27回伝統工芸諸工芸展」入選
    「晶阿弥博子ガラス茶道具」講演&個展(裏千家学校茶道研修会)
2021年 「晶阿弥博子展」品 Shina(銀座)
2022年 「晶阿弥博子のガラスの世界展」伊勢丹新潟店
2023年 「テーブルウェア大賞」オリジナルデザイン部門入選
    「第3回日本和文化グランプリ」入選
2024年 「第4回日本和文化グランプリ」入選
2025年 「第5回日本和文化グランプリ」優秀賞
受賞者ホームページ
Instagram:https://www.instagram.com/hirokoshoami/
Facebook:https://www.facebook.com/hiroko.shoami
受賞コメント
このたび、第5回日本和文化グランプリにて優秀賞を賜り、誠に光栄に存じます。
拙作は、京紫の漆を基調に伝統文様を取り入れ、未来へと続く時の流れをかたちにした風炉先屏風です。
ガラス部分は嵌め込み式で取り外しが可能となっております。
今回の受賞を励みに、「彩漆玻璃(さいしつはり)」と名付けた漆とガラスの融合表現をさらに深め、ガラスの新たな魅力を探求してまいります。
今後ともご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。