2025優秀賞|東京藝術大学 美術学部 工芸科 漆芸専攻 修士2年 白石真子

優秀賞/Excellent Award  
受賞者 東京藝術大学 美術学部 工芸科 漆芸専攻 修士2年 白石真子
工芸・美術部門/漆 乾漆蒔絵螺鈿水指「あまやどり」

作品情報

乾漆蒔絵螺鈿水指「あまやどり」

サイズ…W 170 D 170 H 120 (㎜)
素材…漆、麻布、貝、銀粉、ガラス

お気に入りの服が濡れてしまったり、髪が整わなかったりする梅雨。
そんな梅雨に、私が一番楽しみにしているのが通学路に咲いている
アジサイの群生地です。なかでも青いガクアジサイは真ん中がまるで星空のようで見つけるととても心が躍ります。そんなガクアジサイを
モチーフに水指を制作しました。そして作品にはカタツムリが三匹隠れています。カタツムリはどんな気持ちで雨宿りをするのだろう、お友
達とお話をしているかもしれないし、雨に打たれて喜んでいるかもしれない。そんな風に想像するとなんだか梅雨が楽しくなってきます。
乾漆技法を使い水指の胎から、蓋は旋盤を用いて木材から、加飾は研出し蒔絵や平蒔絵など漆芸の技法を使い作品を制作しました。

GP5優秀賞

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審査委員の講評

外舘和子(多摩美術大学 教授、工芸史家)

乾漆による円筒状のボディに、木材を旋盤で挽き、アーチ状のツマミの付いた蓋が乗る軽やかな水指は、本体と蓋とが、自然な一体感を示しています。円形を意識した側面の装飾内容は、ガクアジサイやカタツムリをモチーフに、梅雨の季節の鬱陶しさも軽減できそうな、楽し気な世界を表現しています。ガクアジサイという、花びらが円を描くような特徴のある形状を、螺鈿や蒔絵で華やかに表し、見え隠れする3匹のカタツムリは立体感を出して強調し、360度楽しめる配置が工夫されているのです。また、雨粒の表現にガラスを用いるなど素材の特質を使い分けている点にも工夫が窺われます。
桃山時代に一つのピークを迎えた日本の茶道において、水指はやきものを素材に作られたものがよく知られていますが、この水指の乾漆造形ゆえの軽さは、取り扱いに際しても、使い手の負担を軽減するものでもあるでしょう。
また、愛らしい装飾の世界は、伝統的な漆芸技法が存分に生かされている一方、若い人々にも共感し易い内容でもあります。それは、若手の茶道離れや、茶道人口の減少が囁かれる茶の湯の世界に、若手を含め、人々を誘う力となることも考えられます。今後もこの作者が茶道具を手掛けることで、現代にふさわしい茶会が生まれるきっかけを生み出すことも期待されるでしょう。   
 

プロフィール

東京藝術大学 美術学部 工芸科 漆芸専攻 修士2年 白石真子

GP5優秀賞2000年 東京都生まれ
2024年 東京藝術大学美術学部工芸科卒業、同大学大学院入学
現在 漆芸専攻 修士二年
受賞者ホームページ
Instagram:https://www.instagram.com/makoshiraishi_
受賞コメント
私は大好きな古美術へのあこがれが、作品を造るときに自分を型にはめて
しまいます。けれども今を生きている自分が、面白いな、かわいいなと純粋に感じたものを素直に表してみる。そしてそれを続けることが未来の伝統を作るのかもしれないと考え、作品を作ることがもっと楽しくなったキッカケの作品でした。その作品でこの度優秀賞を賜り、大変光栄に感じると共に今後の制作の励みになりました。引き続き精進してまいります。ありがとうございます。