| 賞 | 学生特別賞/Special Student Award |
| 受賞者 | 広島市立大学 芸術学研究科 博士一年 漆作家 余丹璐 |
| 学生:工芸・美術部門/漆 | 乾漆螺鈿蒔絵箱「ウメバチソウ」 |
作品情報
乾漆螺鈿蒔絵箱「ウメバチソウ」
サイズ…W195 × D195 × H120 mm
素材…和紙、麻布、漆、夜光貝、金粉、銀粉、つゆ玉
修士課程の二年間において、伝統的な箱や棗の制作に取り組みながら、自分自身の表現スタイルを模索してきた。本作品の制作にあたっては、さまざまな造形について思案を重ねたが、最終的には「生命の循環」というテーマを表現したいという思いから、円形の半球体という形を選択した。円形は最も単純な曲線であるという定義がある。「無限」、「調和」、「復活」などの多重な意味を持つ円は「生命の循環」を象徴し、単純でありながら複雑でもある生命力を表現できると考えている。
作品の装飾においては、ウメバチソウ(梅鉢草、Parnassia palustris)という花を中心に表現した。ウメバチソウは朝の微風に軽く揺られ、鮮やかな葉が舞い、露も風と共に次第に滴り落ちる。新橋色粉で作った色漆を使い、伏彩色の技法を用いた螺鈿の裏面に塗ることで、貝の半透明性を通して青緑色を透かし、箱に生き生きとした印象を与える。異なる緑漆で銀の研出蒔絵と緑と黒の変塗りの装飾技法を用いた虫食いの葉、抽象的な形で舞う葉が表現された。二つのサイズがある銀珠を使い、滴り落ちるつゆを表した。露の点や回転する線と面は、観賞者に箱全体の空間が無限に広がっているような錯覚を引き起こす可能性がある。

審査委員の講評
外舘和子(多摩美術大学 教授、工芸史家)
ウメバチソウは、その名の通り、5枚の白い花びらをもつ梅の花に似た姿の多年草です。その花を、伏せ彩色の技法で青みを加えた螺鈿により、模様の華やかさを強調し、雄しべなども実物以上に勢いよく、弾けんばかりに表現しています。何より、半球状のフォルムの表面を走る緑の葉が、全体に生命感あふれる世界を生み出しています。
「箱」といえば、角のある形状も漆芸作品にはしばしば見られますが、この箱は、乾漆技法による形態の自由さを生かし、充分なふくらみと張りのある上部の蓋が、箱の内部から豊かな空間性を示し、かたちと模様が一体となって、生き生きとした作品になっています。
日本の「箱文化」は、陶磁器をはじめ様々な工芸素材で作られてきた歴史があり、例えば近世の本阿弥光悦が関与した蒔絵の硯箱のような、用途を特定した箱も伝えられています。しかし、現代は、用途についてはむしろ使い手にゆだねるような箱も増えていくことでしょう。この作者の乾漆や螺鈿、蒔絵の技術は、そうした観賞主体の「箱」の自由なフォルムと装飾による漆芸表現の展開に寄与していくことが期待されます。
プロフィール
広島市立大学 芸術学研究科 博士一年 漆作家 余丹璐

中国 寧波市出身
2020 中国美術学院 卒業
2025 秋田公立美術大学 複合芸術専攻 修了
2025 広島市立大学 総合造形芸術専攻 博士一年在籍
◆<受賞履歴>
2020年 中国美術学院卒業創作林風眠創作賞 銅賞
2023年 第十五回秋田県工芸展 AKT秋田テレビ賞 奨励賞
2024年 第六十六回秋田県美術展覧会 工芸 特賞
2024年 第十六秋田工芸展 匠賞
2025年 秋田公立美術大学卒業・修了展 イヤタカ特別賞
2025年 第十三回新県美展(第七十七回広島県美術展) 工芸系 優秀賞
◆受賞者ホームページ
Instagram:joan_normally
◆受賞コメント
日本和文化グランプリに参加の機会をいただき、さらに賞を授与してくださった審査員の皆様に心より感謝申し上げます。恩師のご指導、先輩や家族の支えにも深く御礼申し上げます。本賞は私にとって初めての全国的な展覧会での受賞であり、深い意味がある。修士課程では秋田を拠点に活動し、その豊かな自然風景から花を題材にした作品を制作しました。今後は広島でも漆造形と共に自然をテーマとした作品を続けたいと考えています。和文化の振興は作品のみならず人文的な交流も重要であり、外国人としての視点から描くことに面白さを感じています。



