賞 | グランプリ/Grand Prix |
受賞者 | 中村 圭 |
受賞作品 | KAKI |
作品情報
KAKI
サイズ…LL:21cm角、L:18cm角、M:15cm角、S:12cm角、SS:9.5cm角、落とし:Φ3×H7cm
素材…竹(大分県産)、真鍮
竹は立ち姿が美しく、真っ直ぐで、つるっとしていて、心がはっとするような存在。竹に惹かれて竹工芸の道に入りました。私が学んだ別府竹細工は、編組の多様さが特徴なのですが、そこから私なりの作風を模索していった結果、竹という素材そのものを前面に押し出した「編まない竹細工」に辿りつきました。
KAKIはとても単純な構造ですが、置き方や向きによって違った表情が愉しめます。落としは真鍮製です。イメージに合うように、大阪のヘラ絞り職人さんとやり取りしながら製作していただきました。
部屋に花を一輪生けるだけで空間が華やぎ、心が穏やかになるように感じます。一般的にイメージされるような花器とは違うかもしれませんが、使い方が自由で、人それぞれのアイデアで愉しみ方が広がります。
今日はどんな風に生けようか、と気軽に花を生けるきっかけとなれば嬉しいです。
審査委員の講評
堀越 英嗣 (芝浦工業大学名誉教授 建築家・堀越英嗣ARCHITECT 5 代表)
この作品は、草花を愛でる容器そのもののデザインであるよりも、花を生ける空間、そして生活の美しさを作り出す演出装置として提案されていることが素晴らしい。一般的に西洋の空間では花器は存在感のある意匠でボリュームのある花束とともに美しいバランスと力強さで空間を引き締める主役の役割をもっていると思うが、一方日本において花器は嘗て千利休が提案した、お茶席における花と小さな花入れ、床の書等は、すべて訪れる客人と亭主がその場所、その時間という特別な空間を共有するために、極限まで花と花入れをミニマル化し、それでいて大きな自然を感じるという繊細な日本の感性を感じる空間を作り出す重要な要素であると言えるだろう。この「KAKI」はそのよう茶の世界に代表される他にはない和の文化を現代の日常の生活空間で味わうことができる作品である。名前がKAKIであることも日本のみならず、海外の空間でも、違和感なく花がもたらす小さいけれど自然の繊細な美を日々の暮らしに喜びと豊かさを与える可能性を作者は意識していると思う。和文化を世界に広める小さいけれど大きな可能性を持った作品である。そのことは五つのサイズを持ち、それが多様な組み合わせを持つことよって、様々な状況に合わせて変化して調和させるための独自の形態を持っている。今回の写真によるプレゼンテーションにそのことが的確に表現されている。逆に単体そのものだけをひとつ取って眺めても、竹によるシンプルな形であることからその展開がわかりにくいのだが、五つのサイズを手にとって組み合わせることで様々に展開する可能性に気付かされる。小さな真鍮の落としと異なったサイズのKAKIが生活の中で自然に小さな花を工夫して生けることの楽しさに導いてくれる。静的なオブジェとしての作品を眺めるのではなく、それを使う人の気持ちを誘発し、季節の変化に対応した客人への一期一会のもてなし、喜びを分かち合うという、柔らかな和文化の感性が人々の日々の暮らしを彩ることをこの作品は示してくれている。まさにグランプリにふさわしい作品である。
竹工プロフィール
中村 圭
栃木県生まれ
2017 大分県立竹工芸訓練センター修了
2017 高江雅人氏に師事
2022 独立
現在大分県を拠点に活動
◆入選・受賞歴
2021 工芸都市高岡クラフトコンペティション 準グランプリ、入選
2021 SICF22 MARKET 林口砂里賞
2021 くらしの中の竹工芸展 別府市議会議長賞
2020 くらしの中の竹工芸展 MPP賞
2019 くらしの中の竹工芸展 大分合同新聞社社長賞
2017 日本クラフト展 入選
2017 くらしの中の竹工芸展 別府竹製品協同組合理事長賞
◆受賞者ホームページ
https://www.keinakamura-b.com
◆受賞コメント
この度はグランプリに選出していただき誠にありがとうございます。
選考に携わってくださった方々に心からお礼申し上げます。
文化とは今を生きる人たちが創り、時代によって変わっていくものだと思います。
私も現代の暮らしに合う作品を作ることで文化を継承していく存在になれたら嬉しいです。
今回このコンペに応募することで、和文化とは何かを考えるきっかけをいただきました。
この素晴らしい賞に恥じぬよう、これからも精進してまいります。