賞 | 優秀賞/Excellent Award |
受賞者 | 挽物所639 百瀨 聡文 |
受賞作品 | KASHIKI |
作品情報
KASHIKI
素材:国産ひのき材
伝統挽物技術の弱みを未来の強みに変える。
木工ろくろや木工旋盤で木材を回転させながら削り落とし、形を創り出す挽物技術。
挽物技術の特徴である削り落とす事を、丸棒で組み立てる事によって挽物技術が苦手とする深さがある菓子器になった。
更に挽物技術ではない曲げの技術を利用する事で同様に深さがある菓子器が完成。
今では使わなくなった手作りの丸棒カンナを使う事や他の技術を融合させることで、伝統挽物技術の弱みを新しい挽物技術の可能性に繋げる事ができた。
この新しい挽物技術の可能性で制作した菓子器は、今後大きさを変える事で現代と未来まで残る普段使いの生活用具達となる。
審査委員の講評
襟川 文恵 (公益財団法人横浜市芸術文化振興財団 横浜美術館渉外担当リーダー)
ステレオタイピングされた日本の「菓子器」という概念から解放されたような、高さ(深さ)を持つ木の器である。作家が本作を「KASHIKI」とアルファベットで綴った意図には、日本の文化的アイデンティティを保ちつつも、日本人に限らず様々な人が自由な発想で、この器と向き合い、用途を広げて欲しいという願いがあったのではないかと推察する。轆轤で挽く。鉋で削る。曲げる。木を加工するために古から磨かれてきた職人の技による、趣が異なる二種の蓋物の器。ひとつは、蓋と底が「挽物」で、立ち上がりに「曲げ」が用いられた端正な姿。「挽物」と「曲げ」を融合させた実験的な創作でありながらも、仕上がりは自然で、手のひらから伝わる木の滑らかで清浄な感触を存分に味わうことができる。もうひとつは、細い「丸棒」で立ち上がりを作った、籠のような形状。器の内と外は仕切られているものの、光と風が通り抜けて行く様はなんとも涼やか。わずか3㎜という細さの「丸棒」が決して軽々しく見えないのは、丁寧に専用のカンナで削って作られたものだからだろう。印象として、「曲げ」に軽やかさを感じ、「丸棒」に重厚感を感じたのは意外であり、しかし興味深いことであった。さて、このふたつの器に何を納めてみようか。「曲げ」の内にそっと閉じ込めたいもの。「丸棒」の隙間から存在感を滲ませたいもの。美しくベーシックな器は、驚くべき包容力で多様なライフスタイルに溶け込んでいく。この作品が誰かの手に渡った後を想像するのは、実に愉快である。
挽物職人プロフィール
挽物所639 百瀨 聡文(ももせ としふみ)
1983年生まれ
静岡デザイン専門学校卒業後、
静岡市伝統技術秀士 岸本政男氏、岸本真紀氏に師事。
2011年 挽物所639 創業
2013年 moyocami gallery オープン
2016年 LEXUS NEW TAKUMI PROJECT 静岡県代表
2019年 フォーリサローネ(イタリア)出展
2019年 京都平安神宮額殿 LEXUS CREATORS Connection 出展
◆受賞者ホームページ
https://hikimonojo639.com/
instagram
hikimonojo639_official
◆受賞コメント
この度は、このような賞を頂き光栄です。師匠や諸先輩方に繋げていただいた技術で自分が納得いくものができるようになったのは、ここ最近の事です。技術と真面目に向き合う事で周りが見えなくなってしまう事もありますが、和文化グランプリがある事で未来に何を繋げていきたいか考える良いきっかけになりました。今後もこの技術を土台に更に多くの人と感謝をもって対話をし、しあわせの輪を広げていきます。