CVJ賞|奥畑実奈

CVJ賞/CVJ Award
受賞者 奥畑実奈
受賞作品 華爪2023

作品情報

華爪2023

サイズ…W120 D25 H5(mm)
素材…漆、布、金

人体の一部である「爪」。それらは伸びては切られ死んでゆく。
素地のネイルチップは私のルーツである奈良、興福寺にある阿修羅像など、仏像にも使われる脱活乾漆の技法、加飾には研ぎ出し蒔絵、平蒔絵、高蒔絵を施した。
本来、「爪」は伸びては切られることを繰り返しているが、「爪」がなければ支えがなくなり、物を掴むことも、何かを押さえることさえもできない。そうして、生物としての役割を担い、役割が終わると切られ、生から死へとむかう。
日本には、小さいもの、愛らしく弱々しいものに対して、かわいらしさや「愛でる」という表現がある。江戸時代から盛んになった、根付や印籠からも見られるように、細やかな細工を施した工芸品が数多く制作された。そして、それらを収集し、愛でるという文化が生まれた。
「爪」にも同じような共通点があり、この小さな世界にネイルアートすることもある。しかし、それもまた商業的に消化されるものだ。
それらに伝統的な漆芸技法を使うことで過去から未来へと生命の再生を試みている。付けることを目的としない。観賞し、愛でるための作品。本来の役割から昇華し、その小さな世界に、新たな概念が生まれていくように。

CVJ賞受賞作品

CVJ賞受賞作品

 

審査委員の講評

襟川文恵 (公益財団法人横浜市芸術文化振興財団 横浜美術館渉外担当リーダー)

記念すべき初回のCVJ賞には、「ネイルアート」と「漆芸」が時空を超えて劇的な出会いを果たした「華爪2023」が選ばれた。
「ネイルアート」の起源は古代エジプトにあると言われているが、日本における「爪装飾」の歴史も意外と長い。飛鳥時代には「魔除け」などの目的で紅殻(ベンガラ)を用いて爪を染めていたようだし、平安時代に市井の人々の間で「化粧」が広まると、ホウセンカの花で爪を赤く染める「爪紅(ツマベニまたはツマクレナイ)」も流行した。
そして、和文化の代表的存在である「漆芸」も、やはり飛鳥時代に仏教の普及とともに芸術的な役割が求められるようになり、平安時代には「蒔絵」や「螺鈿」などによる繊細で華やかな表現が確立されていった。
飛鳥~平安~現代という長い道のりを、異なる文脈で歩んできたふたつの要素が、「爪」という小さな舞台で融合し、新しい可能性に向けて輝きを放ったことは、実に興味深く悦ばしい。
身体を飾る方法は多々あれど、自分の目を常に楽しませることができるのは、手元のお洒落くらいではないだろうか。化粧にしても、装いにしても、鏡に映さないと自らの姿を見ることができないが、優美に飾った爪ならば、いつでも目の前に手をかざせばその美しさに陶酔できる。しかも、本作は「極小の日本画」とも「漆芸ジュエリー」とも言えるアートを身体の一部にしてしまえるのだから、その高揚感たるや格別であろう。
爪を飾ることが女性だけの楽しみではなくなった今、「ネイルチップ」はジェンダーレスなアイテムである。見事なまでに現代の美意識に寄り添った本作は、必ずや注目を浴び、日本文化のポテンシャルを世界へ示すことになるだろう。未来が楽しみである。

 

プロフィール

奥畑実奈

奥畑実奈

奈良県生まれ

2000年 東京藝術大学美術学部彫刻科卒業
2002年 東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了
2003年 黒崎えり子ネイルビューティカレッジ卒業
2015年 東京藝術大学小椋範彦研究室研究生修了
2016年 東京藝術大学小椋範彦研究室研究生修了

〈展覧会〉
1999年 未楽来  奈良
2001年 個展 ‘Spring Appearance 2001 Love awaking’フタバ画廊  東京
2005年 個展 ‘Colors-nail collection’ フタバ画廊  東京
2006年 ‘ザ・リングⅡ -too decorative-’ エキジビション・スペース  東京
2007年 個展 ‘Nail Bible’ エキジビション・スペース  東京
2012年 ‘アートde TEMIYAGE’ 伊勢丹新宿店 東京
2013年 ‘collect 2013 The International Art Fair for Contemporary Objects’ Saatchi Galleryロンドン
2014年 ‘collect 2014 The International Art Fair for Contemporary Objects’ Saatchi Galleryロンドン
2015年 ‘うるしのかたち展’ 東京藝術大学陳列館  東京
‘Kawaii:Crafting the Japanese Culture of Cute’ The James Hockey Galleries, University for the
Creative Art イギリス
2016年 ‘Kawaii:Crafting the Japanese Culture of Cute’ Rugby Art Gallery and Museum UK イギリス
‘第55回 日本クラフト展’ 東京ミッドタウン 東京
2016~17年 ‘発信//板橋2016 江戸_現代’ 板橋区立美術館  東京
2019年 ‘erikonail Nail Design Exhibition’ SPACE M 東京
‘アンソロジー’ 新宿高島屋  東京
2021年 ‘明日を築く立体造形’  大阪高島屋  大阪
2022年 ‘明日を築く立体造形’  横浜高島屋  横浜
2023年 ‘輪廻転生〜凛美〜’  横浜高島屋  横浜
2024年 ‘アートのチカラ’  京都高島屋  京都

入選・受賞歴
2008年
‘ASIA NAIL FESTIVL IN OSAKA 2008’  大阪
デザインスカルプチュア準優勝 フリー部門
‘The 6th World Airbrush Competition in Yokohama 2008’  横浜
エアーブラシフリースタイル優勝 プロ部門
デザインスカルプチュア優勝 フリー部門
総合第2位
‘INTERNATIONAL NAIL EXPO 2008’  東京
デザインスカルプチュア優勝 フリー部門
‘ネイルMAX’
マニキュアリスト国内ランキング第1位

2009年
‘ASIA NAIL FESTIVL IN OSAKA 2009’  大阪
デザインスカルプチュア準優勝 フリー部門
‘INTERNATIONAL NAIL EXPO 2009’  東京
ジェルデザインイクステンション第7位 フリー部門

2010年
‘INTERNATIONAL NAIL EXPO 2010’  東京
デザインスカルプチュア第3位 フリー部門

2011年
‘INTERNATIONAL NAIL EXPO 2011’  東京
デザインスカルプチュア優勝 フリー部門

2012年
‘INTERNATIONAL NAIL EXPO 2012’  東京
デザインスカルプチュア優勝 フリー部門

2013年
‘I.M.A インターナショナルモードコンテスト’  東京
ジェルアートカップ優秀賞 ネイル部門
『ネイル MAX』賞
‘INTERNATIONAL NAIL EXPO 2013’  東京
フリースタイルデザインイクステンション第7位 フリー部門

2016年
‘第55回 日本クラフト展’ 東京 入選

受賞者ホームページ
https://vernis.jp/

instagram
mina_okuhata/

受賞コメント
この度は栄誉あるCVJ 賞を頂けたこと、とても光栄に思います。
彫刻を学び、ネイルの世界に飛び込んで漆芸との融合に至るまで、かなりの時間を要しました。多くの方のご指導もあり、試行錯誤して完成した作品です。アートの中では確立されていない分野ですが、爪というこの小さな世界には、まだまだ可能性があると思っています。今回の受賞を励みとし、これからも精進を続けてまいります。本当にありがとうございました。