2025準グランプリ|金沢美術工芸大学 劉幸運

準グランプリ/Semi-grand prix
受賞者 金沢美術工芸大学 劉幸運
工芸・美術部門/漆 宇宙の境 Ⅰ

作品情報

宇宙の境 Ⅰ

サイズ…W145mm H55mm D65mm
素材…漆、麻布、金、貝

螺鈿技法を用いて「天円地方」の思想を表現する可能性を探ることを目的としています。器物の造形には伝統的な楕円形を採用し、螺鈿による円形文様で「天」の存在を視覚化しました。また、色彩と光と影の変化を通じて、天地の対比と調和を際立たせています。
螺鈿の素材は赤・青・緑など豊かな色彩を備え、黒漆の背景に映えることでより鮮烈に浮かび上がります。色の対比と融合によって、作品全体における“境地”を象徴的に表現しています。さらに、螺鈿の表面は独特の光沢を持ち、見る角度により虹のような輝きを放つ多彩な光を反射します。この光と影の効果は、天地(天と地)の調和と変化を象徴するものともなっています。

第5回日本和文化グランプリ 準グランプリ受賞

  • 第5回日本和文化グランプリ 準グランプリ受賞
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審査委員の講評

外舘和子(多摩美術大学 教授、工芸史家)

確かな乾漆技術で成形された美しい楕円の箱は、蓋部分の上面がわずかに膨らみ、かたち自体が豊かな空間を構築しています。箱の側面から蓋の上面の縁にかけて施された螺鈿や蒔絵の装飾は、柔らかな曲線を描くよう配され、宇宙の星々や銀河、その煌めきを想わせます。蓋を開けると、内側の底には、さらに華やかな色調の装飾が見られ、蓋物を開ける楽しみや魅力が一層広がります。
今回、比較的若い世代の漆芸に質の高い作品が少なからず見られましたが、この作品は、限られたサイズの中にも、自身の世界観、宇宙観を、豊かな空間性と密度で表現しており、仕上げの丁寧さ、技術的なレベルにおいても、準グランプリにふさわしい作品といえるでしょう。
乾漆技術は例えば歴史上の代表作に天平時代の阿修羅像がありますが、今日では、さまざまなオブジェや造形表現に用いられています。しかし、この受賞作では、「箱」といういわば身近なアイテムに用いており、また乾漆ならではの軽さは、一種ユニバーサルな魅力でもあり、日本ならではの「箱文化」を発展させていくものと思われます。
乾漆、螺鈿、蒔絵といった漆芸の伝統技法を駆使して新しいものを生み出す姿勢に、この作者の今後が大いに期待されます。

 

プロフィール

金沢美術工芸大学 劉幸運

劉幸運(LIU XINGYUN)
2018年 中南民族大学美术学部卒業
2022年 秋田公立美術大学大学院複合芸術研究科卒業
2023年 金沢美術工芸大学 美術工芸専攻 博士後期課程 在籍
◆入選・受賞歴
2021年 61回東日本伝統工芸展入選(以後2回入選)
秋田工芸展[60周年特別賞]
2022年 62回石川の伝統工芸展入選(以後2回入選)
秋田工芸展[秋田県知事賞]
2023年 国際漆展·石川2023 入選
薪技芸 国際青年工芸展 銅賞
2024 第64回石川の伝統工芸展 新人賞

受賞者ホームページ
Instagram
https://www.instagram.com/liuxingyun0415?igsh=bW9wZXhreXRiaGZj&utm_source=qr

受賞コメント
このたびは「日本和文化グランプリ」において準グランプリ賞を賜り、心より御礼申し上げます。日々、素材と技法に真摯に向き合い、試行錯誤を重ねてまいりましたが、その歩みをこのように高く評価していただけるとは、誠に光栄であり感激の極みです。
今後も、和文化の美意識と伝統を大切にしながら、新たな表現や技術の探求を続けていく所存です。至らぬ点も多い私ですが、変わらぬご指導とご鞭撻を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。