| 賞 | 優秀賞/Excellent Award |
| 受賞者 | 畳職人 ケンジ |
| 空間部門/建築 | 鶴反飲水図 |
作品情報
鶴反飲水図
サイズ…W 7.6m D 3.8m H 5cm
素材…畳
最も重要なコンセプトは、光の反射によって畳の色を変化させる事である。
仕組みとしては、全て同じ色の畳を使用しているが畳の織り目の角度の違いを意図的に作り出し、光の反射によって畳の色が複数に見えるように設計している。これは畳を利用した光と影の演出である。その為、鑑賞者の立ち位置や日照時間によって作品の色が変化する特徴がある。「鶴反飲水図」では白と黒の2羽の鶴を描いており、鑑賞者の位置によって白い鶴が黒く見えたり、黒い鶴が白く見えたりする。また2羽の鶴が同色に見える位置も存在する。これは人間社会にも当てはまる現象であり、例えばロシアとウクライナの戦争でいえば、ロシア側から見ればロシアは正義に見えているが、ウクライナ側から見ればロシアは悪に見えているという構図を表現している。
また、畳は壁にかける絵画とは違い床面を利用する。この特性を活かし外部空間と内部空間の接続を可能にした。壁面を使えば空間の分断になってしまうが、床面を使う事によって外部空間と内部空間に境のないインスタレーションを実現している。「鶴反飲水図」では外部にある枯山水を水飲み場として見立てて、そこに水を飲みに来た鶴を内部に描いている。内部と外部を繋げるインスタレーションは畳ならではの表現であり、新たな空間活用の指針である。

審査委員の講評
堀越英嗣(芝浦工業大学名誉教授 東京藝術大学客員教授 建築家・堀越英嗣ARCHITECT 5 代表)
この作品は、建築と庭園が一体となる禅宗寺院の塔頭に伝統的に確立してきた伝統的日本建築の空間に、現代の技術を生かした畳のアートによってこれまでにない室内と庭園の融合する新しく独創的な空間を生み出している。
歴史的な禅宗寺院の書院造りや、塔頭の方丈は整然としてシンプルな内部空間と創意あふれる庭の空間が縁側を介して一つになり、美しい思考のための立体的空間を作り出しており、それは鎌倉後期から江戸時代に渡り長く伝統的日本建築の空間として確立してきている。その中でそれぞれの個性を生み出しているのは枯山水などの庭園の意匠であり、室内の襖障子、あるいは押板の大床壁貼付などに描かれた障壁画であった。畳に関しては室礼としての置き畳みから規格寸法の畳が敷き詰められた空間に進化し、幾何学性、抽象性を持つ内部空間と枯山水の庭との対比と連続の空間であった。
この作品は障壁画の持つ世界観を畳としての素材特性を追求して描くことにより、建築と庭園が一体化して響き合う全く新しい和の空間を生み出している。
規格化した畳が敷き込まれた伝統的内部空間の持つ抽象性は日本の文化の一つの特性としてこれからも受け継がれてゆくべきものであるが、現代の先端的技術を駆使した新しい畳により表現された新しい「床」は、嘗てそれぞれの時代に現れた革新的提案の積み重ねによる伝統の歴史に新たな表現の可能性を加えるという意味で誠に優秀賞に相応しい作品である。伝統を継承し発展させる和文化の現代の革新として高く評価したい。
プロフィール
畳職人 ケンジ
岐阜県出身
1995年 攻殻機動隊に強い影響を受ける
2023年 東福寺光明院個展
2024年 技アートフェスin名古屋 参加
◆受賞者ホームページ
HP:https://japanesefloortatam.wixsite.com/yamada
Instagram:https://www.instagram.com/tatami1869/
◆受賞コメント
グランプリを目指して応募しましたが獲得することが叶わずとても悔しいです。作家として生活していくことは資金繰りなどとても厳しいですが、この悔しさを糧に今回の作品以上の大作が作れるようにまた工房に籠って頑張っていきます。SNSでの発信をしているので応援していただけると嬉しいです。



