2025優秀賞|工芸家具作家 古谷禎朗

優秀賞/Excellent Award  
受賞者 工芸家具作家 古谷禎朗
工芸・美術部門/木工 黒漆枝脚丸テーブル

作品情報

黒漆枝脚丸テーブル

サイズ…W500 D500 H600(mm)
素材…榀・栃

脚の天板との接合部は一見丸棒を差したように見せていますが、実は削り出して造形しています。こうした造形はヤスリのような工具では出来ません。日本の繰り小刀、各種豆鉋などで造形、仕上げていきます。脚部には二枚ホゾ、そこから離れた枝部は丸ホゾで接合部分が増えますので強度が格段に上がります。

3本の脚の断面は楕円状にし、中央の「貫」との接合は枝部分と違い自然な流れになるように滑らかに削り出して仕上げています。
この2つがこの作品のフックとなる「視覚のトリック」となります。
視覚的に受ける印象と加工が違う2つの方法を一つの作品に混在させ、見所としています。

天板は榀(シナ)の杢板です。10年以上前、名古屋の材木屋の奥に放置されていた材ですが、黒ずんだ表面でも中の湧き立つような泡杢が視認でき、2枚引き取る事にしました。ロクロ加工用に既に丸く荒ドリされていたのでその大きさを充分活かすよう円膳(日本伝統工芸展出品)と今回の丸テーブルの天板に使いました。

日本の木工芸の世界では明確な材木の格付けがされています。
それらは銘木と呼ばれ、最高級とされる御蔵島桑を筆頭に黒柿、献保梨、玉椿、文灌木、神代杉、等をこれまで幾人もの名工が用い作品として遺して来た訳です。世界に目を向けてもクラロウォールナット、マホガニー、ローズウッドといった日本には無い色や木味を持った銘木が存在しています。

「シナ」という材は合板によく使われ案外身近に在りますが、その価値は、特に木工芸の世界では殆ど認められてこなかった歴史があります。
私は今までもシナに限らずあまり木工芸では使われてこなかった材の使用を画策してきました。従来とはまた違う解釈と発見が無いかと考えて来ました。それを実現するには新しいアイデアが必要で、そもそもの作品としての完成度や説得力が求められます。
今回、こうした誰からも見向きされなかった材、「榀」という事で作品の主材には用いられなかった材にスポットを当てる事ができたことも感慨深く感じています。

白くそれ程木目が明瞭では無いシナ、そして脚部の栃はそのままでは深みが出ないので黒漆で染め、30工程にも及ぶ拭き漆で仕上げています。

日本の「拭き漆」という技法はよく木工で使われていますが、基本的には材に生漆を摺り込み布などで拭き取る手法です。したがって地域によっては「摺り漆」とも呼ばれます。木の導管に漆が入ることで木目がより明瞭になり、素材本来の色や質感を残しつつ保護してくれます。
そこに近代以降大量の漆を吸い込ませ木地を硬めて、耐水ペーパーで研ぎ出して表面と形をより整える、道管が深い材には漆と水と砥の粉を混ぜた「サビ」を埋めて更に研ぎ上げ平面にする方法が確立しました。伝統工芸展などでも近畿や刳り物作家を中心にこの塗りを採用する作家が増えています。この作品の仕上げもこの手法を採用しており、従来の拭き取る漆仕上げより塗膜感と深み有るテクスチャーが得られます

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審査委員の講評

片平秀貴(丸の内ブランドフォーラム代表)

このたびは、JCPPグランプリの部門賞、受賞おめでとうございます

①作品の概要
この作品は、作品名が示すとおり「黒漆」で仕上げられた「枝脚」の「丸テーブル」で、天板の直径が500㎜、高さが600㎜と、バランスの良いサイズで、用途としては、ソファの横のサイドテーブルや、二人用のティーテーブルに適しています。

②評価ポイント
まず、評者の主観になりますが、家具は、見て美しく、使って心地よく、永く飽きない、が大切なポイントだと思います。この作品については、まず「見て美しい」は言を待ちません。審査会場に入ったとたんに、遠くにあったにもかかわらずその存在感が際立っていて惹きつけられました。絶妙な縦横比、奥深い漆仕上げの色、そして、近づいてよく見ると、脚に微妙にRが入っているだけでなく、下に行くにつれて細くなるその太さにもいい仕事がなされていて、それらすべてが相まって独自の美しさを構成しているのが分かります。

「使って心地よく」と「永く飽きない」は会場ですぐには分かりませんが、しなの木の杢板(もくいた;木目の乱れや節などが美しく、面白い紋様となっている板)の天板は、作者の言葉によると、「深みを出せるよう黒漆で染め、30工程にも及ぶ拭き漆で仕上げている」とのこと。黒漆でしっかり染められた杢板は、見た目に美しく、撫でると吸い込まれるような感覚が伝わってきて間違いなく「使って心地よい」です。また、単に「永く飽きない」だけでなく、時間とともにその輝きが増すことを予感させます。

③文化的・芸術的意義
美しい小テーブルの中に、「削りだし」、「摩(さす)り」、「拭き漆」など、わが国の木工芸の伝統的な技が隠されていて、世界に誇れるわが国の木工芸文化の逸品と判断します

④今後への期待
家具は、テーブル一つだけでは不十分と考えます。この作者が、どんなダイニングセット、どんな飾り棚、・・・をつくる(すでにつくられている)のか、すべてのピースを貫くこだわりとストーリーは何か、そして、それらにどんな「名前」が付けられているのか。それらが揃って、世界の家具の目利きを虜にすることをお祈りしています
 

プロフィール

工芸家具作家 古谷禎朗

GP5優秀賞
1974年 大阪市に生まれる 
2002年 福知山高等技術専門校卒業
2005年 京都美山にて独立
2011年 小海町高原美術館『木の椅子』展招待出展
2012年 大丸神戸店美術画廊にて個展
2015年 阪急うめだ本店美術画廊にて個展
2021年 銀座和光ホール「華やぎの工芸展」出展
2022年 文化庁主催「深める・拡げる-拡張する伝統工芸展」出展 
<受賞歴>
2006年、2008年 暮らしの中の木の椅子展入選
2010年 第57回日本伝統工芸展 初出品初入選(パナソニック賞)
2011年 第40回日本伝統工芸近畿展 初入選
2011年 第85回 国展 国画賞(グランプリ)
2012年 京都美術工芸ビエンナーレ2012入選
2013年 第55回大阪工芸展 大阪工芸大賞(グランプリ)
2014年 第43回 日本伝統工芸近畿展 松下幸之助記念賞
2015年 第70回 新匠工芸会展 佳作賞
2016年 90回記念国展受賞
2017年、2018年、2022年 新匠工芸会展 新匠賞(グランプリ)
2025年 第20回 伝統工芸木竹展 文部科学大臣賞
日本工芸会正会員 
受賞者ホームページ
HP:https://www.furutani-yoshio.com
Instagram:yoshio_furutani
受賞コメント
工芸的な意識で家具を制作して来ました。
私にとって工芸とは作家の美意識を反映しつつ、堅実な技術と材料との密接な関係からつくられるものです。更に言えば美術や音楽と同じく表現の中に作者の内面や思想を反映させうるものです。

日本的な刃物使いを活かした枝分かれ部分の造形、漆による深みある仕上げで和の文化、世界に誇れる日本の木工と木漆の技法を世界に伝えられる家具になればと切に願います。