| 賞 | 奨励賞/Incentive Award |
| 受賞者 | ガラス工芸作家 吉井こころ |
| 工芸・美術部門/硝子 | 「硝子香瓶 —記憶の容れ物—」 |
作品情報
「硝子香瓶 —記憶の容れ物—」
サイズ…約Φ70×18cm
素材…廃板ガラス
かつて窓として人々の暮らしを見守り、風景を映してきた板硝子。役目を終え、廃棄される素材に再び命を吹き込むように、私は吹きガラスとパート・ド・ヴェールという二つの技法を用いて香水瓶へと再生させました。香りは、目に見えず、しかし確かに人の記憶や感情を呼び覚ます力を持つものです。この作品は、かつての窓ガラスに宿った風景や記憶を、香りという儚くも鮮烈な存在と重ね合わせ「記憶の容れ物」として再生させたものです。和文化には、壊れたものに新たな価値を与え、美を見出す工芸技法があります。また、異なる技法や価値観を融合させて独自の美を築いてきた歴史もあります。廃棄硝子が「香るための器」へと姿を変え、作品として調和することで、日本文化の精神を現代のかたちに映し出せればと考えました。

審査委員の講評
上杉孝久(上杉子爵家九代目当主)
この作品に接して先ず注目した事は、廃棄したガラス窓を使用した事です。敢えて再利用することにより、新しい命を吹き込む。この時代、再利用しなくてもいくらでも素材は入手できます。しかし再利用そのものが日本文化の源流には流れています。拙宅の伝来品の中に一休禅師の書があります。この書が書かれている紙が再生紙です。一度書かれた紙を溶かして再生したので、鼠色をしています。しかし、この紙の色が実に良いのです。
この硝子香瓶の作者が書いています。
「日本文化の中には壊れたものに新たな価値を与え、美を見出す工芸技法がある」
これこそがまさに「日本文化」らしさだと思いました。再生された作品はお洒落な香瓶であることも素晴らしいと思います。記憶と一緒に香りを楽しめる。この香瓶に作者はどのような香りを入れたいのでしょう。
プロフィール
ガラス工芸作家 吉井こころ

1998年 多摩美術大学美術学部デザイン科ガラスコース卒業
2024年 東京藝術大学美術研究領域 後期博士課程 修了
◆<受賞歴>
2008年 神奈川県美術展大賞 受賞
2012年 現代ガラス展2012 隈研吾審査員賞 受賞
2018年 日本美術展(日展)入選(17・18年)/富山現代ガラス展入選
2021年 日本ガラス工芸協会(JGAA)賞 受賞/国際工芸アワードとやま2020 入選
2022年 国際ガラス展金沢2022入選/SYDNEY CRAFT WEEK(オーストラリア)入選
2022〜2023年 シドニー大学芸術社会学部 / KOUGEI 1+1プロジェクト(富山県)
2023年 工芸都市高岡2023クラフトコンペティション 入選
2024年 日本ガラス工芸協会(JGAA)賞 受賞/日本美術展(日展)入選
◆受賞者ホームページ
Instagram:https://www.instagram.com/kokoro.yoshii
◆受賞コメント
私は古代遺跡が好きで、紀元前2250年頃メソポタミアで人類が初めて創り出した人工物であるガラスと、古代技法
で作品制作をしてきました。しかし人間の活動で砂漠化した現在のメソポタミア地域を見るうちに科学の原点であるガラスの捉え方を変えねばならないと思い始めました。日本人の、物を大切にする精神の下、ガラスのリサイクル性リユース性とLCA(ライフサイクルアセスメント)を研究し、和文化として昇華しようと試行錯誤を続けて来たことを、この度評価していただいたことは大変励みになりました。



